人気ブログランキング | 話題のタグを見る

元探偵が日常をだらだらとテーマに沿って書き綴る。旅行記になるのか、体験記になるのか、それはこれからの秘密だ。


by atasakura

K田さん事件簿①-6

こんにちわ。

それでは前回の続きです。

背後から近寄る不気味な呼吸音。
後ろを振り向こうと思うのだが、なぜか振り向けない。
別に特別な事ではなく、自分自身が恐怖心に包まれているからだった。

ゴクリと唾を飲み込む音がはっきりと耳まで聞こえる。

携帯をゆっくりと下ろし、後ろを振り向こうとした瞬間だった。
腰よりも上の辺り、胸よりやや下の背中に、何か冷たくとがった物が押し付けられたのだ。
衣服を通した肌に触れる冷たい感触が色々と俺に想像させる。

「だ・・・誰っすか」

「シュー・・・シュー・・・」

返事はない。

「なんか背中に当たってるんですけど」

自然と声が掠れ気味になるのは言うまでもなかった。
今までにも何度か危険な目に合う事もあったけど、
やはり死という言葉が頭を掠める時ほど怖い時はないのだ。

「俺をどうするつもり?」

精一杯の勇気を振り絞り質問してみる。

「シュー・・・シュー・・」

相変わらず返事はない。
コイツは喋る事が出来ないのだろうか。

「悪いんだけど、背中に当ててるものを離してくれないかな?」

俺がそう告げた途端に、背中にチクっと微かに痛みが走る。
どうやら、答えはNoという事らしい。

そのままお互いに動く事なく5分くらいが過ぎた。
いい加減に、緊張感を持ったまま、硬直状態でいるのは疲れる。
俺のそんな気持ちを敏感に察したのか、肩が軽く前に押される。
そのまま歩けという事なのだろうか。

俺が軽く一歩前に踏み出すと、再び背中に痛みが走る。

どうやら、それが正解らしい。

俺はゆっくりと、ゆっくりと前に進みだした。
相変わらず背中には何か冷たくとがったものが充てられている。
背後の存在が気になるが呼吸音と、頭部に当たる息から
俺よりも身長が高めの人物だというのが分かる。

こんな時にアクション映画の俳優なら、格好良く背後の人物を攻撃して
その正体を判明させるところだが、現実はそんな風に上手くいくはずもない。
俺はただの素人なのだから。

「後ろを向いてもいいかい?」

俺がそう言いながら、振り向こうとすると、手で頭を押さえられて
強制的に前を向かせられたかと思うと、軽く背中を蹴り飛ばされた。
どうしても後ろを向かせたくないらしい。

玄関まで来たところで、急に肩を抑えられて動きを止められる。
すると、そのまま動くなと言うかのように手で指示をされた。
それから1分ほどそこにいただろうか。
肩越しに手書きで書かれた紙が目の前に示された。
そこには、汚い字で「ここから出て行け。そして二度と戻るな」と書かれていた。

「無理だと言ったら・・許してくれないよね?」

再び背中にチクリと痛みが走る。

何をされるか分からない状況なので、この場は素直に従う事にした。
俺はそのまま振り向かないで、玄関のドアを開ける。

正体を見るのは、このチャンスしかない。
俺はドアの外に出た瞬間に背後を振り返った。

だが、そこには、すでに相手の姿はなかった。

軽くため息をつくと、俺は携帯を取り出し、K田さんに連絡をした。
by atasakura | 2007-10-29 16:36